『聖珠伝説パールシード』というRPGはここが素晴らしい!
岡和田晃(ゲームライター)
●はじめに
ロールプレイングゲーム(RPG)の傑作『聖珠伝説パールシード』(以下、『パールシード』)が、めでたく復刊を遂げました。
かつてアクセス困難だった伝説の名作が、各種ショップやイベント等で、入手できるようになりました。
けれども、「遊んでみたいけど、どうも踏ん切りがつかない……」という声が、しばしば私たちの耳に入ってきます。
そこで、この機会に『パールシード』の素晴らしさを、皆さんと確認していこうと思います。
よろしくお付き合いをいただけましたら、幸いです。
血湧き肉躍るファンタジー世界・タルタニアへ、ようこそ!!
●1:入門にピッタリ、オール・イン・ワンなRPGである!
『パールシード』は、初めてRPGを体験するのに、ピッタリの作品です。
RPGといっても、コンピュータにストーリーや進行を処理してもらうタイプのRPGではなく、いわゆる会話型のRPG(テーブルトークRPG、TRPG)のことを指しています。
一人のゲームマスター(司会進行役)と、数人のプレイヤーがテーブルを囲み、和気あいあいと会話によって話を進めていくゲームで、何よりもエンターテインメントとして優れており、他には代えがたい充実した経験をもたらすツールでもあります。
近年は社会的な認知度も向上し、各専門家の協力のもと、文学研究・教育・福祉といった分野でも、色々な応用が模索されています(*1)。
そして『パールシード』は、「そもそもRPGとは何か?」というレベルから、懇切丁寧に解説されたRPGで、RPGの基本的な考え方を楽しみながら学んでいくのにピッタリな作品です。
友だちと一緒におもちゃ屋さんに出かけ、かねこしんや画伯のキュートなイラストに彩られたボックスセットを購入、家に帰って箱を開ければ、そこはすでに、目くるめく驚異のアドベンチャー・ワールド!
たとえRPGがまったく初めての人であっても、すぐに本格的な冒険物語を体験できる仕様となっていました。
そのオール・イン・ワンなコンセプトは、最新のDTP技術で書籍版(ブックタイプ・ゲーム)として復活を遂げた、今回のヴァージョンでも変わりはありません。
サイコロだけ、別途用意する必要がありますが、メジャーな6面体ダイス2つでOKなので、調達するのも、そう難しくはないでしょう。
●2:とにかく、わかりやすくて面白い!
このゲームは、プレイヤーとしてゲームに参加するハードルが極端に低いのが特徴となっています。
試しに、キャラクター作成(ファンタジー世界におけるあなたの分身を設定すること)の手順を説明してみましょう。
まず、戦士(ファイター)、盗賊(シーフ)、僧侶(クレリック)、魔法使い(マジックユーザー)の4種から、自分に合う職業を決めます。
それぞれの職業に、得意なことと、不得意なことがあります。パーティを組んで、お互い助け合いながら冒険を進めていくからですね。
続いて、サイコロで性格を決めていきます。
ここで、素の自分とは異なる性格が(サイコロを振った結果として)出てしまうかもしれませんが、それはそれ(笑)。せっかくの機会ですので、想像の羽根を伸ばし、別の自分になりきってみてください。
いざ、キャラクター名をつければ、作成完了。
冒険がはじまってからは、司会進行役をつとめるゲームマスターの説明に耳を傾け、「自分がこのキャラクターだったら……」と、あれこれ考え、シチュエーションを想像し、行動を発言します。
時にはダイスを2つ振り、表と照らし合わせて結果を申告することもあります。
要は、これだけ(笑)。
でも、退屈なことは、まったくありません。
何より戦闘時には、キャラクターのレベルに合わせた専用の表(コンバット・マトリクス)が用意されており、サイコロを振るだけで、どのような戦いが行なわれているのかが、鮮やかに描写されます。例えば1レベルの戦士だと……。
剣と体が一体になったような感覚を一瞬覚えた。その瞬間だけは妙に剣が軽かった。そして確かな手ごたえ。剣の名手のような正確さで敵の急所をついていたのだ。20ダメージ!
――どうです? ちょっと感動的ではありませんか?
冒険そのものは、基本的に、ダンジョンの内部、ないし舞台を一種の擬似的なダンジョンに見立て、そこを探検する形で進められます。
ダンジョンには専用のシートが設けられており、自分がどこにいて何ができるのか、常に明確化されています。
なので、「次、何やればよかったっけ……?」と、戸惑わずにすみます。
とにかく、わかりやすいゲームなのです。
●3:ゲームマスター入門にもってこい!
ゲームマスターといえば、プレイヤーが担当する部分を除いて、すべてを請け負う役割ですので、とかく負担が多いとみなされがちです。
慣れるとこんなに楽しいものもないのですが、特に未経験の方だと、負担だけが大きくて、ゲームマスターなんて恐ろしくてできない、という人も少なくないようです。
その点、『パールシード』のルールは簡潔かつ骨太なので、ゲームマスターをやるのもラクチンです。
最小の負担でゲームマスターをつとめることができます。
シナリオの記述も丁寧なので、プレイヤーの行動に応じたアドリブを織り交ぜて運用しても、ゲームは大船に乗ったような抜群の安定感を誇ります。
『パールシード』に詳しいゲームデザイナーの上村大さんも言っておられますが(*2)、ルールブックを斜め読みしても、あるいはうろ覚えで運用をしても、『パールシード』は、自然とゲーム的な「正解」に導かれるように設計されているんですね。
だから、初めてのゲームマスターにピッタリです。
身構えることなしに、気のおけない仲間と、ワイワイ遊んでみてください。
あるいは、自分が今まで遊んだことのない相手、よく知らない相手や世代が異なる相手と卓を囲むことになって不安が兆したら、ぜひ『パールシード』を選んでみてください。
『パールシード』の抜群の安定感が、その威力を発揮することでしょう。
さまざまなプレイヤーを相手にゲームマスターとして経験を積んだ数だけ、あなた自身も成長し、さらに素晴らしい物語を、参加者に提供できるようになるはずです。
●4:シナリオの完成度が高い!
どんなにルールが優れていても、シナリオがなければRPGは楽しめません。例えて言えば、コンピュータ・ゲームの本体を買っても、ソフトがなければゲームを遊べないのと同じことです。
この点『パールシード』が素晴らしいのは、シナリオがたくさん付属していて、その完成度が群を抜いて高いことです。
オール・イン・ワンなRPGとして、買ってすぐに遊べるというのも、シナリオが充実しているおかげですね。
内訳は、一話完結のシナリオが2本、そして、合計5本の連続(キャンペーン・)シナリオからなる壮大なサーガ「聖珠伝説」が入っています。
これらのシナリオは、1本が1時間程度のゲームで終了するようにデザインされていますから、ちょっとした空き時間でも楽しめますし――本腰入れて「聖珠伝説」を完走すれば、――最低数ヶ月はかかるはずのキャンペーン・ゲームが、たった1日で消化できるようになっています。
これって、凄いことですよ。
RPGは遊ぶのに時間がかかることが、重大なネックとされてきましたが、『パールシード』は、最小のタイム・コストで冒険物語に参加し、多大な満足感を得ることができるのです。
また、キャンペーン・シナリオ「聖珠伝説」は、少年少女の成長を正面から描いた王道の冒険物語です。完結した暁には、参加者は架空の世界の経験を経ることで、新しい自分に気づくこととなるでしょう。
●5:シンプルで、奥行きのある世界観!
『パールシード』の舞台となるファンタジー世界(タルタニア世界)は、コンピュータゲーム『ドラゴンクエスト』のような中世ヨーロッパ風の異世界ですが、ドラゴン族、デーモン族、それに女神の三すくみが、その根幹をなしているのが大きな特徴的となっています。
面白いのは、単に「ドラゴン対女神」、あるいは「デーモン対女神」となっていないことでしょうか。
「善」と「悪」の二元論からなる、わかりやすい対立構造を踏襲しつつ、三すくみを採用することで、世界に、ぐっと奥行きが生まれています。
また、シナリオブックには、雰囲気たっぷりの地図が挿入されています。
ゲームマスターは、この地図と、各種データをゆっくり眺めて、あれこれイマジネーションを膨らませてみましょう。
いつのまにか、オリジナルの物語がぽこっと生まれているかもしれません。
●6:伝説のRPGが今ここに!
実はこの『パールシード』、長らく伝説のRPGとして語り継がれてきたタイトルだったりもします。
復刻されるまで、専門店やオークションにて、定価の5倍から10倍の価格がつけられることも、珍しくありませんでした。
なぜ伝説のRPGなのか、すべての理由を語り尽くすことはできません。
ただ、このゲームが品質面から、高く評価されてきたことは事実です。
- RPGに必要な要素が網羅され、かつ、コンパクトにまとめられていたこと。
- キャッチーでありながら、こだわりと奥の深さを感じさせる世界観やイラストが、心地よく、想像力を刺激したこと。
- ボードゲーム感覚で遊べるプレイアビリティの高さと、シナリオの完成度がうまくブレンドしていたこと。
簡単に列挙してきましたが、こうした特徴がバランスよく配合された作品、それが『パールシード』なのです。
特に最後の部分は重要です。
近年は、RPGをプレイする層の広がりから、ボードゲーム感覚で参加できる、完成度の高いゲームシステムが求められる傾向があります。
『パールシード』は、そうした潮流を先取りした作品といえるからです。
また、ボードゲームでも、RPGのエッセンスを取り入れたプレイアブルで重厚なストーリーを体験できる作品が、近年は見直され、世界的に高い評価を受けています(*3)。
そのため、ボードゲーム・ファンをRPGへ誘うにあたっても、『パールシード』は、威力を発揮するかもしれません。
また、『パールシード』は、もともとプレイ・バイ・フォン(電話を使ったゲーム・プレイ)のような、新しいメディアを使って遊ぶことも想定に入っていました。
今ですと、インターネット上においてオンラインでのゲーム・プレイも盛んになってきていますが、『パールシード』はオンラインでもプレイにも馴染みやすい仕様となっています。
まずは実際に、ゲームへ参加してみましょう。
伝説のRPGとして語り継がれてきた理由が、あなたも肌で実感できるはずです。
●おわりに
ごく簡単ではありますが、『パールシード』の面白い部分を紹介してきました。
あとは実際に、皆さんの手で『パールシード』に触れてみてください。
気軽に参加できる入門イベントが、さまざまな機会に行なわれているようです。
『パールシード』は、初めて遊ぶRPGにぴったりのゲームシステムですし、未経験の友人をRPGの世界に誘いやすいゲームです。
あなたの大事な仲間たちに、あるいはRPGをまだ遊んだことのない友だちへ声をかけて、血湧き肉踊る冒険のひとときをご堪能ください。
きっと、あなたの生活に、より豊かな彩りを与えてくれることでしょう。
初心者の方へ向けて、『パールシード』の面白さを確認して参りましたが、また機会があれば、今度は文化史的な観点から『パールシード』について語ってみたいと思います。その際には、よろしくお付き合いをいただけましたら幸いです。
(*1)文学研究の分野では、しばしばRPGが参照されてきましたが、近年ではRPG『ラビットホール・ドロップス』を題材に、プロの児童文学の書き手が参加した「児童文学TRPG」という雑誌が日本児童文芸家協会のイベントで頒布されたり(2013)、教育の分野では小学校のクラブ活動でオリジナルRPG『冒険王道』(http://kataruni.com/member/masafumi/ad_road/m_1.html)試されたり、福祉の分野では、発達障害のある成人当事者や発達障害支援にかかわる支援者・専門家と、TRPGの専門家とが一堂に集い、TRPGを楽しむコラボレーションイベント「Mission Impossible」(http://trpgdd.blog40.fc2.com/blog-entry-52.html)が開催されたりしています。なお、とりわけ教育や福祉分野における応用の実践にあたっては、各種専門家にご相談されたうえで行なうことを推奨いたします。
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(*2)「株式会社トミーウォーカー代表取締役 上村大様からの応援メッセージ」(http://www.tamasuna.jp/pearl/mess01.html)からの引用です。
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(*3)「Role&Roll」(アークライト/新紀元社)誌に連載されている、安田均さんのコラム「ゲームを斬るNEXT」等で、紹介されています。
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